個人塾が儲からないというのは本当でしょうか?
一人で塾を経営する場合、大手塾との競争、集客の困難さ、運営の非効率性など、様々な課題が収益を圧迫します。
弊社での10年以上の複数塾経営経験から、個人塾が儲からない根本的な原因と、一人経営でも月収50万円以上を実現する具体的な方法をお伝えします。
個人塾が儲からない根本的な原因
個人塾が儲からない最大の原因は、一人ですべてを抱え込む非効率な経営構造にあります。
1. 時間あたり収益の限界
個人塾経営者の最大の制約は「時間」です。月間授業時間は約140~160時間、授業外作業(準備・事務・営業)が月60~80時間必要で、最大授業時間160時間×単価2,500円の理論上最大売上40万円も、実際の稼働率70~80%では28~32万円程度が現実的な上限となります。
2. スケールメリットの欠如
大手塾が大量購入による単価削減効果を享受する一方、個人塾は小口購入により教材費だけで年間20~30万円のコスト差が生まれます。生徒管理システムも大手は複数教室で分散できますが、個人塾は月額3~5万円を単独負担し、生徒数が少ないため投資回収が困難です。
3. 営業・マーケティング力の不足
授業に時間を取られることで営業活動の時間確保が困難になり、マーケティング知識や経験不足、限られた広告予算という制約があります。大手塾との知名度格差は埋めがたく、合格実績の蓄積にも時間がかかります。
4. 経営知識・ノウハウの不足
多くの個人塾経営者は教育のプロでも経営のプロではありません。損益計算書の読み方、キャッシュフロー管理、適正な価格設定、労働基準法の理解、個人情報保護法の対応など、経営に必要な知識が不足しがちです。
5. 一人経営特有のリスク
経営者の病気・怪我による授業中止で収入が完全停止するリスク、すべての責任を一人で背負う重圧、生徒・保護者からのクレーム対応、将来への不安・孤独感など、精神的・経済的負担が集中します。
このように、個人塾が儲からない根本的な原因は、時間制約、スケールメリット欠如、マーケティング力不足、経営知識不足、一人経営リスクという複合的な構造問題にあります。
次に、一人で塾を経営する際の収入の現実について、具体的なデータを基に詳しく解説していきます。
一人で塾を経営する際の収入の現実
個人塾経営者の年収は200~500万円が実態で、時間あたり収入は一般的なアルバイトと変わらないケースも多いのが現実です。
個人塾経営者の年収分布
2023年調査では、年収200万円未満が25%(開業1~2年目、生徒数20名未満)、年収200~300万円が35%(生徒数20~40名程度)、年収300~500万円が30%(生徒数40~70名程度)、年収500万円以上はわずか10%(生徒数70名以上)という厳しい現実があります。
月収・時給の現実的な計算
開業2年目の個人塾(生徒数25名)の例
月間収入450,000円(月謝375,000円+講習費75,000円)から月間支出170,000円(家賃・光熱費・教材費等)を差し引いた実質月収は280,000円、年収336万円となります。月間労働時間200時間(授業150時間+授業外50時間)で計算すると、時給はわずか1,400円です。
安定期の個人塾(生徒数50名)の例
月間収入1,050,000円から月間支出470,000円(講師費含む)を差し引いた実質月収580,000円、年収696万円で、効率化により労働時間180時間に短縮されると時給3,222円となります。しかし、この水準に到達できる個人塾は限られています。
個人塾経営の隠れたコスト
年収300万円の場合、国民健康保険料20~30万円、国民年金約20万円、所得税・住民税15~25万円という社会保障費負担があります。会社員と異なり病気・怪我時の収入保障や退職金制度はなく、有給休暇もないため休暇は即座に収入減につながります。
年収向上の限界
一人で対応可能な生徒数は50~80名が上限で、それ以上は講師雇用が必要となり利益率が低下します。また、商圏人口による生徒数上限、他塾との競合による制約、料金設定の地域相場による制限という地域市場の限界があります。
一人で塾を経営する際の収入の現実は決して楽観的ではなく、多くの経営者が期待していた収入を得られずに苦戦しているのが実情です。
次に、個人塾経営者が陥りがちな具体的な失敗パターンについて詳しく解説していきます。
個人塾経営者が陥りがちな3つの失敗パターン
個人塾経営者の8割以上が共通して陥る失敗パターンがあり、これらを事前に理解することで経営リスクを大幅に軽減できます。
失敗パターン1:「安売り競争」による収益性の悪化
開業当初の生徒確保に苦戦し、「とりあえず生徒を集めよう」と近隣塾より20~30%安い料金設定をしてしまいます。これにより売上が上がらず、質の高い講師を雇用できなくなり、サービス品質低下で生徒離れが加速する悪循環に陥ります。
地方都市のA塾では、近隣相場18,000円に対し12,000円で設定し、月間生徒数35名・売上420,000円・支出380,000円で月間利益わずか40,000円となり、開業3年で閉塾しました。
対策: 価値ベースの価格設定、価格重視層ではなく価値重視層のターゲット化、他塾にない独自サービスによる差別化要素の構築が重要です。
失敗パターン2:「すべて一人で抱え込み」による限界
経費削減のため講師雇用を避け、授業・事務・掃除・営業をすべて自分で実施する「人件費を節約すれば利益が出る」という発想に陥ります。結果として授業準備時間不足、生徒・保護者対応の質低下、新規営業活動不足により、生徒数が一定レベルで頭打ちとなります。
都市部のB塾では、週6日・1日12時間営業で担当生徒数45名でしたが、新規営業活動は月2~3時間のみで、5年間生徒数が40~50名で変わらず、経営者の健康状態悪化という結果になりました。
対策: 段階的な業務委託(清掃・事務作業から外部委託)、システム化・効率化の推進、収益と時間のバランス重視が必要です。
失敗パターン3:「場当たり的な経営」による資金ショート
事業計画書未作成、売上・利益予測なし、季節変動への備え不足で運営し、エアコン故障、講師退職、集客不振などの突発的支出により資金不足が生じます。最終的に借入金による運転資金確保と利息負担による収益圧迫に陥ります。
郊外のC塾では、開業資金300万円で運転資金計画がなく、夏期エアコン故障40万円、講師退職で月10万円増、生徒数減少で月収20万円減により、資金不足80万円が発生し経営危機となりました。
対策: 3年間の事業計画策定、緊急予備資金の確保(月商3ヶ月分)、月次損益の定期的な分析・改善が不可欠です。
個人塾経営者が陥りがちな失敗パターンは予測可能であり、事前に対策を講じることで成功への道筋を明確にできます。
次に、大手塾との差別化ができずに苦戦する個人塾の特徴について詳しく解説していきます。
大手塾との差別化ができずに苦戦する個人塾の特徴
大手塾との差別化に失敗する個人塾は、同じサービスを安く提供しようとして結果的に経営が行き詰まります。
差別化に失敗する共通特徴
大手塾と同じ指導形式(個別指導1対2)、同じ教材、同じ指導内容(学校の補習中心)で料金だけが安い設定をしてしまいます。この状況では保護者は「同じサービスなら大手の方が安心」「料金が安い理由が不安」という判断になります。
「丁寧な指導」「アットホームな雰囲気」「一人ひとりに合わせた指導」といった曖昧なアピールは、具体性に欠け、他塾も同じことを言っているため差別化につながりません。
大手塾との競争で不利になる要因
ブランド力・知名度の差: 大手塾の全国展開による知名度、TV・Web広告による認知度、豊富な合格実績に対し、個人塾は地域限定の知名度、限られた広告予算、実績の蓄積不足という不利があります。
システム・ノウハウの差: 大手塾の体系化されたカリキュラム、豊富な過去問・データベース、進路指導のノウハウに対し、個人塾は手作りのカリキュラム、限られた教材・情報、進路指導の経験不足という制約があります。
成功する差別化戦略の事例
英検専門塾(生徒数30名、年収450万円): 英検1級取得の塾長による指導、英検対策特化カリキュラム、合格率95%の実績により、明確な専門性をアピールし月額25,000円の高単価を実現。
地元中学特化塾(生徒数60名、年収600万円): 地元中学校3校に特化し、各学校の定期テスト過去問10年分保有、学校行事・部活動スケジュール完全把握により、大手塾では対応困難な細かいサービスを提供。
効果的な差別化のポイント: ターゲットの明確化(学年・教科・目標の絞り込み)、独自の強みの活用(専門資格・実績・経験)、地域特性の活用(地元企業との連携・地域イベント参加)、サービス提供方法の工夫(家庭訪問型・ハイブリッド型)が重要です。
大手塾との差別化に成功することで、個人塾でも十分な収益を確保でき、価格競争に巻き込まれない独自のポジションを築くことが可能です。
次に、個人塾でも月収50万円を実現する具体的な経営戦略について詳しく解説していきます。
個人塾でも月収50万円を実現する経営戦略
個人塾でも適切な戦略を実行すれば、月収50万円以上の安定した収益を実現することは十分可能です。
月収50万円達成の基本設計
個別指導中心の場合: 目標月収50万円、必要売上70万円(利益率70%想定)で、個別指導月謝20,000円×30名+グループ指導12,000円×8名+講習・オプション年間120万円÷12ヶ月により合計売上796,000円が必要です。
専門特化型の場合: 必要売上65万円(利益率77%想定)で、専門コース月謝30,000円×20名+短期講座15,000円×3名+個別指導25,000円×4名により合計売上745,000円となります。
高収益を実現する4つの戦略
1. 高単価サービスの開発 医学部受験コース(月額50,000円)、英検1級対策コース(月額35,000円)、完全1対1指導(月額40,000円)などの専門性を活かした高単価サービスの提供。
2. 効率的な運営システムの構築 グループ指導の活用(1時間で6名指導、時給7,200円)、オンライン授業の併用(移動時間ゼロ、地域を越えた生徒獲得)、授業準備の効率化(教材テンプレート化、授業動画の再利用)による時間効率の最大化。
3. 継続率向上による安定収益 月1回の三者面談実施、毎月の詳細報告書作成、LINEでの日常的な情報共有により、継続率70%→80%改善で年間新規獲得必要数を36名→24名(33%削減)し、集客コスト年間60万円削減を実現。
4. 複数収益源の確保 英会話教室(月謝8,000円×15名)、プログラミング教室(月謝10,000円×10名)、学習動画コンテンツ(月額2,980円×50名)、企業研修講師(1回50,000円×月2回)など、メイン事業以外の収益源確保。
実際の成功事例
理系特化型個人塾(月収605,000円): 地方都市で生徒数35名、理系専門コース月額25,000円×20名、個別指導月額30,000円×10名、オンライン指導月額15,000円×5名により月間収入975,000円、支出370,000円で月収605,000円を実現。元エンジニアの経歴を活かした実践的指導と地域進学校との連携関係構築が成功要因。
月収50万円達成のロードマップ
フェーズ1(開業~1年目): 月収20万円、生徒数20名で基本的な集客システム確立 フェーズ2(2年目): 月収35万円、生徒数30名でサービス差別化実施
フェーズ3(3年目): 月収50万円、生徒数40名で高単価サービス導入 フェーズ4(4年目以降): 月収70万円以上で事業拡大・多角化
このように、個人塾でも月収50万円の実現は決して不可能ではありません。
次に、個人塾経営を成功させるための開業準備について具体的なチェックリストを提示していきます。
個人塾経営を成功させるための開業準備チェックリスト
個人塾の成功は開業前の準備で8割が決まります。事前の準備を怠ると、後々の経営で取り返しのつかない失敗につながります。
1. 事業計画・資金計画の策定
事業計画書の必須項目 商圏内の小中高生人口調査、競合塾の数・料金・サービス内容調査、主要ターゲット層の明確化、競合との差別化ポイント設定、3年間の売上計画(1年目月平均30万円、2年目50万円、3年目70万円)の策定が必要です。
資金計画の詳細設計 初期投資(物件取得費・内装工事費・設備費等)330~760万円、運転資金(3ヶ月分固定費・開業宣伝費・予備資金)140万円の確保と、自己資金・親族借入・日本政策金融公庫・信用保証協会付き融資による資金調達計画の立案。
2. 立地・物件選定
商圏分析: 半径1km圏内の小中高生人口500名以上、徒歩・自転車圏内の学校数3校以上、住宅地の世帯年収水準地域平均以上の確認。
競合分析: 半径1km圏内の競合塾数3校以下、競合の弱点・隙間市場の特定、差別化可能性の評価。
物件条件: 賃料は想定売上の15%以下、面積30~60坪、保護者送迎用駐車場2~5台、塾業での使用許可・看板設置許可の確認。
3. 法的手続き・システム整備
基本的な開業手続き: 個人事業開始申告書、青色申告承認申請書、労働保険関係成立届、防火管理者選任(収容人員30名以上の場合)。
IT環境の構築: 生徒管理システムの選定・導入、会計ソフト導入、ホームページ作成、メール・LINE公式アカウント設定、Wi-Fi環境・プロジェクター・空調設備の整備。
4. 人材確保・マーケティング準備
講師採用の準備: 必要講師数の算定、採用基準・給与条件の設定、求人方法の決定、面接・模擬授業の実施方法決定、新人研修プログラム作成。
開業前マーケティング: 塾名・ロゴ・キャッチコピーの決定、パンフレット・チラシのデザイン、ホームページコンテンツ作成、開業キャンペーンの企画、無料体験授業の実施計画。
時代が代わり現在はweb集客は非常に有効なので、コスパ良く戦略を立てることが重要です。
5. リスク管理・保険
施設賠償責任保険、個人情報漏洩保険、火災・地震保険、経営者向け所得補償保険の加入と、避難経路確保・緊急連絡先リスト作成・事故対応マニュアル・個人情報保護体制の整備。
開業準備のスケジュール
開業6ヶ月前: 事業計画書作成、資金調達活動、物件探し・商圏調査 開業3ヶ月前: 物件契約・内装工事、各種手続き・届出、システム・設備導入
開業1ヶ月前: 講師採用・研修、集客活動開始、最終確認・テスト運用
個人塾経営の成功は、この開業準備の段階での丁寧な計画立案と実行にかかっています。一つひとつの項目を確実にクリアしていくことで、安定した経営基盤を築くことができます。
個人塾が儲からないという現実は確かに存在しますが、適切な戦略と準備によって、一人経営でも十分な収益を上げることは可能です。重要なのは、安易な価格競争に陥らず、独自の価値を提供し続けることです。