塾のフランチャイズ経営を検討している方にとって、最も気になるのは「実際に儲かるのか」という点でしょう。
独立開業と比較すると、本部のブランド力やノウハウを活用できる一方で、加盟金やロイヤリティの負担もあり、収益性については慎重に見極める必要があります。
成功している加盟店もあれば、思うように利益が出ず苦戦している加盟店もあるのが現実ではあります。
10年以上学習塾を運営してきた経験から、塾のフランチャイズの収益性、メリットとリスク、成功するための条件を具体的にお伝えします。
実際に儲かるのでしょうか?
塾のフランチャイズは儲かるの?
塾のフランチャイズは立地選定と運営次第で年収500万円〜800万円程度の利益は見込めますが、加盟金やロイヤリティの負担があるため独立開業より利益率は低く、大きく儲けることは難しいのが実態です。
売上規模は立地や規模によって大きく異なります。個別指導塾の場合、生徒一人あたりの月謝が2万円〜3万円程度として、30名の生徒がいれば月商60万円〜90万円です。50名になれば100万円〜150万円、80名になれば160万円〜240万円の売上が見込めます。集団指導の場合は、個別指導より単価は低めですが、一度に多くの生徒を教えられるため、効率は良くなります。
経費構造を見ると、主な支出は家賃、講師給与、ロイヤリティ、広告費、光熱費、教材費などです。家賃は立地により異なりますが、月10万円〜30万円が一般的です。講師給与は生徒数に応じて変動しますが、月20万円〜80万円程度です。フランチャイズの場合、本部へのロイヤリティとして売上の5%〜15%程度を支払う必要があります。これらの固定費と変動費を合わせると、売上の70%〜85%程度が経費となります。
営業利益率は、うまく運営できれば10%〜20%程度です。月商150万円であれば、営業利益は15万円〜30万円程度となります。ただし、これはオーナー自身が講師として働く場合の数字です。オーナーが教えず、完全に講師に任せる場合は、人件費が増えるため利益率は下がります。
損益分岐点は、固定費の大きさによりますが、個別指導塾で生徒数20名〜30名程度が目安です。それ以下だと赤字、それ以上で黒字という状況になります。開業から黒字化するまで、通常6ヶ月〜1年程度かかることが多いため、その間の運転資金の確保が重要です。
初期投資の回収期間は、加盟金・内装費・備品費などで500万円〜800万円の初期投資をした場合、順調に行けば3年〜5年程度で回収できます。ただし、これは順調に生徒が集まった場合の話で、集客に苦戦すると回収期間は長くなります。
月商100万円〜300万円、営業利益率10%〜20%という数字から、塾のフランチャイズは一定の収益は見込めるものの、ロイヤリティ負担により大きな利益を得ることは難しいと言えます。
それでは、フランチャイズのメリットは何なのか見ていきましょう。
塾のフランチャイズのメリット
塾のフランチャイズのメリットは、ブランド力による集客のしやすさ、確立された運営ノウハウの提供、本部からの継続的なサポートです。
ブランド力による集客のしやすさは、フランチャイズ最大のメリットです。無名の個人塾を開業する場合、認知度を上げるまでに時間と広告費がかかります。一方、知名度のあるフランチャイズに加盟すれば、最初からブランドの信頼性を活用できます。「あの塾なら安心」という認識が既にあるため、体験授業への申し込みや入会の決断がスムーズになります。
確立された運営ノウハウの提供も大きな利点です。独立開業の場合、すべてを自分で考えなければなりませんが、フランチャイズでは本部が蓄積したノウハウを提供してくれます。授業カリキュラム、教材、指導マニュアル、生徒募集方法、保護者対応方法など、成功事例に基づいたノウハウを活用できるため、試行錯誤の時間を短縮できます。
開業前の研修制度も充実しています。多くのフランチャイズ本部では、加盟前に数日〜数週間の研修を実施し、塾経営の基本から指導方法、システムの使い方まで教えてくれます。教育業界未経験者でも、研修を受けることで基本的なスキルを身につけられます。
本部からの継続的なサポートも受けられます。開業後も、スーパーバイザーが定期的に訪問して経営アドバイスをくれたり、困ったときに相談できる窓口があったりします。集客がうまくいかないとき、講師の採用に困ったとき、トラブルが発生したときなど、サポートを受けられることで、一人で抱え込まずに済みます。
集客支援も手厚い場合があります。本部が広告を出してくれる、Webサイトを作ってくれる、チラシのデザインを提供してくれるなど、マーケティング面でのサポートが受けられます。個人で広告代理店に依頼すると高額ですが、本部のスケールメリットを活かせることで、効率的な集客が可能になります。
教材やシステムが整っていることもメリットです。オリジナル教材が用意されている、生徒管理システムが提供される、オンライン授業のプラットフォームがあるなど、自分で一から開発する必要がありません。これにより、準備の手間とコストを大幅に削減できます。
他の加盟店との情報交換ができることも利点です。フランチャイズ本部が加盟店同士の交流会を開催したり、成功事例を共有したりすることで、他の加盟店の良い取り組みを学べます。孤独になりがちな個人経営と違い、仲間がいるという安心感もあります。
ブランド力、ノウハウ、サポート体制が、フランチャイズの主なメリットです。
次に、フランチャイズのデメリットとリスクについても確認していきましょう。
塾のフランチャイズのデメリットとリスク
塾のフランチャイズのデメリットとリスクは、加盟金とロイヤリティの負担、運営の自由度制限、本部との契約の縛りです。
加盟金とロイヤリティの負担は、フランチャイズの大きなデメリットです。加盟時には、加盟金として100万円〜300万円程度を支払う必要があり、これは返金されません。さらに、毎月の売上に対してロイヤリティとして5%〜15%を支払い続けなければなりません。月商100万円であれば、月5万円〜15万円がロイヤリティとして本部に支払われます。独立開業であればこの費用はかからないため、利益率が低くなる要因です。
運営の自由度が制限されることもリスクです。フランチャイズ契約では、本部の方針に従う必要があり、独自の判断で授業内容を変えたり、料金を自由に設定したりできません。「こうしたほうが良い」というアイデアがあっても、本部の承認が必要なため、柔軟な対応が難しくなります。地域の特性に合わせた独自のサービスを提供したい場合、制限を感じることがあります。
教材やカリキュラムも本部指定のものを使わなければならないため、自分の教育理念と合わない場合でも従う必要があります。また、本部が決めた広告やキャンペーンに参加しなければならず、追加費用が発生することもあります。
契約期間の縛りもリスクの一つです。多くのフランチャイズ契約は3年〜5年の契約期間が設定されており、途中で解約する場合は違約金が発生します。「思ったより儲からないからやめたい」と思っても、簡単には撤退できません。また、契約更新時には更新料が必要な場合もあります。
競業避止義務も課されることがあります。フランチャイズ契約終了後も、一定期間同じ地域で塾を開業できない条項が含まれている場合があります。つまり、フランチャイズをやめても、独立して塾を続けることが制限される可能性があります。
本部の経営状況に左右されるリスクもあります。本部の評判が悪くなる、倒産するなどの事態が起きると、加盟店にも影響が及びます。ブランドイメージが傷つけば、生徒募集にも悪影響が出ます。
サポートが期待外れの場合もあります。契約前の説明では手厚いサポートがあると言われても、実際には形だけで実質的な支援がないケースもあります。特に加盟店数が多い本部では、一つ一つの加盟店に十分なサポートが行き届かないことがあります。
加盟金・ロイヤリティの負担、自由度の制限、契約の縛りが、フランチャイズのデメリットとリスクです。
それでは、フランチャイズで儲けるためにはどんな条件が必要なのか見ていきましょう。
塾のフランチャイズで儲けるための条件
塾のフランチャイズで儲けるには、好立地の確保、効果的な生徒募集、優秀な講師の確保と育成、オーナーの運営能力が必要です。
好立地の確保は成功の大前提です。フランチャイズであっても、立地が悪ければ生徒は集まりません。住宅地に近く、駅から近く、学校の通学路沿いなど、生徒が通いやすい場所を選ぶことが重要です。本部が立地選定をサポートしてくれる場合もありますが、最終的には自分でしっかり調査して判断する必要があります。周辺の人口、世帯構成、競合塾の状況なども確認しましょう。
効果的な生徒募集ができるかどうかも儲けを左右します。本部がブランド力やノウハウを提供してくれても、実際に生徒を集めるのは加盟店の努力です。チラシのポスティング、ホームページの充実、体験授業の実施、口コミの獲得など、地道な集客活動を継続する必要があります。開業時だけでなく、常に新規生徒を獲得し続ける姿勢が大切です。
優秀な講師を確保し育成することも重要です。授業の質は講師の質で決まるため、良い講師がいなければ生徒満足度が下がり、退塾につながります。採用時にしっかり見極め、採用後は研修で育成し、働きやすい環境を整えて定着させることが必要です。講師不足で授業が回らなくなると、売上機会を失うことになります。
オーナー自身の運営能力も欠かせません。フランチャイズだから楽に経営できるわけではなく、日々の管理、生徒や保護者とのコミュニケーション、講師のマネジメント、収支管理など、やるべきことは山積みです。経営者としての判断力、リーダーシップ、問題解決能力が求められます。
生徒や保護者との関係構築も儲けるための条件です。満足度の高いサービスを提供し、信頼関係を築くことで、退塾を防ぎ、口コミで新規生徒が集まります。面談をこまめに行う、授業報告を丁寧に行う、悩みに寄り添うなど、きめ細かい対応が必要です。
コスト管理も重要です。無駄な経費を削減し、効率的な運営を心がけることで、利益率を高められます。講師のシフト管理を最適化する、光熱費を抑える、不要な備品は買わないなど、細かいコストにも注意を払いましょう。
継続的な改善姿勢も必要です。生徒アンケートを実施して満足度を測定し、改善点を見つけて対応する、他の加盟店の成功事例を学ぶなど、常に質を向上させる努力が儲けにつながります。
好立地、集客力、講師育成、運営能力により、フランチャイズで儲けられる塾経営が実現します。
次に、フランチャイズと独立開業ではどちらが儲かるのか比較してみましょう。
塾のフランチャイズと独立開業の比較
塾のフランチャイズと独立開業を比較すると、初期費用はフランチャイズの方が100万円〜300万円高く、利益率は独立開業の方が高いが、成功率はフランチャイズの方がやや高い傾向があります。
初期費用を比較すると、独立開業は300万円〜500万円程度で開業できますが、フランチャイズは加盟金が上乗せされるため、500万円〜800万円程度必要です。加盟金として100万円〜300万円を最初に支払う必要があるため、資金面ではフランチャイズの方が負担が大きくなります。
ランニングコストも、フランチャイズはロイヤリティの支払いがある分、独立開業より高くなります。月商100万円の場合、ロイヤリティとして月5万円〜15万円を支払い続けるため、年間で60万円〜180万円の差が出ます。
利益率では、独立開業の方が有利です。ロイヤリティがない分、同じ売上でも手元に残る利益が多くなります。営業利益率で比較すると、独立開業は15%〜25%程度が見込めますが、フランチャイズは10%〜20%程度になります。
成功率では、フランチャイズの方がやや高い傾向があります。本部のノウハウやブランド力を活用できるため、開業後の失敗リスクが低くなります。独立開業の場合、すべてを自分で判断するため、経験がないと失敗する確率が高まります。ただし、これは経営者の能力によって大きく変わります。
自由度では、独立開業の方が圧倒的に高いです。授業内容、料金設定、キャンペーン、教室の雰囲気など、すべてを自分の判断で決められます。独自のアイデアを実現したい、自分の教育理念を追求したい場合は、独立開業が向いています。
ブランド力では、フランチャイズが有利です。知名度のある塾ブランドを使えることで、集客のハードルが下がります。独立開業の場合、認知度を上げるまでに時間と広告費がかかります。
サポート体制も、フランチャイズの方が充実しています。困ったときに相談できる本部があることは、特に未経験者にとって大きな安心材料です。独立開業では、すべて自分で解決しなければなりません。
どちらが儲かるかは、オーナーの能力や状況によります。経営経験があり、独自の強みを持っている人は独立開業の方が利益を最大化できます。一方、未経験で不安が大きい人、ブランド力を活用したい人は、多少コストがかかってもフランチャイズの方が成功しやすいでしょう。
初期費用と利益率では独立開業が有利ですが、成功率とサポートではフランチャイズが有利という特徴があります。
最後に、フランチャイズ選びで失敗しないポイントを確認しましょう。
塾のフランチャイズ選びで失敗しないポイント
塾のフランチャイズ選びで失敗しないポイントは、加盟店の実績確認、契約内容の精査、本部の信頼性調査です。
加盟店の実績を確認することが最優先です。本部の説明だけでなく、実際に加盟している店舗を訪問し、オーナーに話を聞きましょう。「本当に儲かっているか」「本部のサポートは十分か」「困ったことはないか」など、率直な意見を聞くことで、現実が見えてきます。複数の加盟店を訪問し、成功している店舗と苦戦している店舗の違いを把握することも重要です。
契約内容を細かく精査することも欠かせません。加盟金、ロイヤリティ、契約期間、更新料、違約金、競業避止義務など、すべての条項を理解してから契約しましょう。特に、途中解約する場合の条件や費用、契約終了後の制限については、しっかり確認が必要です。不明点があれば、弁護士に相談することも検討しましょう。
ロイヤリティの算定方法も重要です。売上に対してのパーセンテージなのか、固定額なのか、どの段階の売上を基準にするのかを確認します。売上が増えるほどロイヤリティも増える仕組みだと、利益率が頭打ちになる可能性があります。
本部の信頼性を調査することも大切です。本部の経営状況、設立年数、加盟店数、倒産リスクなどを確認しましょう。設立間もない本部や、加盟店数が少ない本部は、ノウハウが確立されていない可能性があります。また、ネット上の口コミや評判も参考にしますが、情報の信憑性には注意が必要です。
サポート内容の具体性も確認します。「手厚いサポート」と言われても、具体的に何をしてくれるのかを明確にしましょう。開業前の研修内容、開業後の訪問頻度、相談窓口の対応時間、集客支援の内容など、できるだけ詳しく聞き出します。
本部の教育理念や方針が自分に合っているかも重要です。いくら儲かると言われても、自分の教育観と合わない方針では、長続きしません。また、生徒や保護者に対する姿勢が自分の価値観と一致しているかも確認しましょう。
初期費用だけでなく、トータルコストを計算することも必要です。加盟金、内装費、備品費、研修費、広告費、ロイヤリティなど、すべての費用を合計し、何年で回収できるかをシミュレーションします。本部が提示する収益モデルは楽観的な場合が多いため、保守的に見積もることが大切です。
複数のフランチャイズ本部を比較検討することもおすすめです。一つの本部だけで決めず、少なくとも3社程度を比較し、それぞれの強み・弱み、費用、サポート内容を比べることで、最適な選択ができます。
加盟店の実態調査、契約内容の精査、本部の信頼性確認により、失敗しないフランチャイズ選びが実現します。