学習塾の市場規模はどう変わる?業界の現状と今後の動向について
学習塾学習塾の経営や開業を考えるとき、業界全体の市場規模と動向を正しく把握しておくことは、経営判断の土台になります。
「少子化が続く中で塾業界は今後どうなるのか」という疑問は、開業を検討する人にとっても、現在経営中の塾長にとっても切実なテーマです。
データを見ると、業界全体の規模は横ばいから微増が続く一方で、倒産件数も増加しており、業界内の二極化が鮮明になっています。
学習塾の市場規模と業界の実態を正しく理解することで、生き残るための経営戦略を現実的に立てることができます。
学習塾の市場規模はどう変わる?
学習塾・予備校の市場規模は、少子化が進む中でも縮小せず横ばい〜微増で推移しており、2024年度も停滞傾向ながら一定の規模を維持しています。
矢野経済研究所の2025年調査によると、教育産業全体(主要15分野)の市場規模は2024年度に前年比0.7%増の2兆8,555億円となりました。
この中で「学習塾・予備校市場」は教育産業の中で最大規模を誇る分野ですが、事業者間の業績格差と少子化の影響を受けて停滞傾向にあります。
一方で経済産業省のデータでは、学習塾の売上高は2022年に5,549億円と過去5年で1,000億円以上伸びており、子ども一人あたりにかける教育費の増加が市場を下支えしています。
このように、学習塾・予備校の市場規模は、少子化が進む中でも縮小せず横ばい〜微増で推移しており、2024年度も停滞傾向ながら一定の規模を維持しています。
次は、市場が維持されている具体的な理由を見ていきます。
少子化が進む中で学習塾市場が縮小しない理由
少子化が進んでいるにもかかわらず学習塾の市場規模が縮小しない理由は、子ども一人あたりの教育費が増加し続けているからです。
子どもの数が減る一方で、1人の子どもにかける塾費が増えることで、市場全体の売上が維持される構造になっています。
子ども一人あたりの学習費が増加している
文部科学省の調査によると、公立小学生の塾費は年間約8万円、私立小学生は年間約27万円と過去最高水準に達しています。
少子化が進むということは、裏を返せば「親や祖父母が限られた我が子に教育費を集中投資できる」ということでもあります。
共働き家庭の増加による世帯収入の向上も、教育費への投資拡大を後押ししています。
近年は特に幼稚園児〜小学生の子どもにかける塾費の増加が顕著で、都市部を中心に「お受験」の低年齢化が進んでいます。
学校の学習内容のレベルが上がっている
ゆとり教育の終了以降、学校の学習内容は年々レベルアップしています。
中学生が学ぶ英単語数が以前の2倍近くになったことも、その象徴のひとつです。
学校の授業についていけない生徒・それを危惧する保護者が増えたことで、補習目的の学習塾の需要が高まっています。
また、大学入試の共通テスト化・思考力重視への転換により、従来型の暗記中心の学習では対応できないという認識が広がり、塾での受験対策需要が増えています。
個別指導塾の増加が市場の売上を押し上げている
集団指導と比べて個別指導塾のほうが費用が高額になる傾向があり、個別指導塾が市場に占める割合が増えることで、業界全体の売上が上昇しやすくなります。
コスパ・タイパを重視する保護者のニーズに応え、子どもの習い事や学校行事に合わせて柔軟に授業時間を調整できる個別指導塾への移行が進んでいます。
このように、少子化が進んでいるにもかかわらず学習塾の市場規模が縮小しない理由は、子ども一人あたりの教育費が増加し続けているからです。
次は、市場規模の裏に潜む倒産増加と二極化の実態を見ていきます。
学習塾市場が拡大する裏で倒産が増加している実態
学習塾の市場規模が維持される一方で、倒産件数も増加しており、業界内の格差が急速に広がっています。
東京商工リサーチのデータによると、2024年上半期だけで倒産した塾の数は26件に達し、負債総額は過去最高となりました。
倒産の要因の多くは「販売不振」であり、市場のニーズが多様化する一方で、大手のように柔軟に対応できない中小規模の塾が淘汰されているという構造です。
大手塾への顧客集中が加速している
少子化によって子どもの絶対数が減る中、生き残る塾と経営が立ち行かなくなる塾の格差が拡大しています。
特に大手チェーン塾への顧客集中が顕著で、ブランド力・情報量・テクノロジー活用で差をつけた大手が生徒を獲得し、資金力の乏しい中小塾が苦境に立たされています。
大手塾は全国ネットワークによる合格実績・AIを活用した学習管理システム・オンライン授業との組み合わせなど、中小塾では真似できない付加価値を提供しています。
一方で、地域密着・特定の専門性・塾長の人柄など、大手には出せない強みを持つ中小塾は一定の競争力を維持しています。
動画学習・アプリとの競合が激化している
YouTube・学習アプリ・オンライン教材の普及により、無料または低コストで学べる環境が急速に整っています。
「塾と動画学習の使い分け」が一般化しており、「わからないことを調べる目的」でのYouTube活用が広がったことで、補習目的の通塾需要が一部代替されています。
ただし、モチベーション管理・定期的な確認・保護者との連携という面では、動画学習が学習塾の役割を完全に代替することは難しく、両者は補完関係にある部分も大きいです。
講師不足が深刻化している
少子化によって若い世代の人口が減少しており、アルバイト講師のなり手が不足してきています。
特に地方では大学生の数が少ないため、アルバイト講師の確保が都市部以上に難しくなっています。
「質の高い講師が確保できない→指導の質が下がる→生徒が減る」という悪循環に陥った塾が、倒産件数の増加に寄与していると考えられます。
このように、学習塾の市場規模が維持される一方で、倒産件数も増加しており、業界内の格差が急速に広がっています。
次は、業界のDX・IT化という構造変化を見ていきます。
学習塾業界のDX・IT化という構造変化
学習塾業界では、生徒管理・保護者連絡・授業形式のデジタル化という構造変化が急速に進んでいます。
コロナ禍をきっかけに加速したオンライン授業の普及が、塾業界のビジネスモデルそのものを変えつつあります。
オンライン授業・ハイブリッド型の普及
コロナ禍で多くの塾が導入したオンライン授業は、終息後も一定の需要が続いています。
「通塾が難しい日はオンライン」「地方在住でも都市部の優秀な講師に習える」という利点が保護者に受け入れられ、完全通塾型からハイブリッド型への移行が進んでいます。
オンラインに対応できている塾は商圏の制約を超えた集客が可能になる一方、対応できていない塾は近隣校との競合にさらされるリスクが高まっています。
AI・タブレット教材の導入拡大
AI搭載の学習管理システム・タブレット教材・自動採点機能を活用することで、講師の負担を減らしながら生徒一人ひとりに最適化された学習を提供できるようになっています。
特に「AI×個別指導」という組み合わせは、少ない講師人数でも多くの生徒を効率的に指導できるモデルとして注目されています。
システム導入コストが課題でしたが、月額数千円〜数万円で利用できるサービスが増えており、中小塾でも導入しやすい環境になっています。
保護者とのデジタルコミュニケーション
入退室通知・授業報告・月謝の自動引き落としなど、保護者との日常的なコミュニケーションのデジタル化が標準になりつつあります。
こうしたシステムを導入している塾は「安心感・利便性」の面で保護者の満足度が高く、退塾率の低下につながっているというデータもあります。
このように、学習塾業界では、生徒管理・保護者連絡・授業形式のデジタル化という構造変化が急速に進んでいます。
次は、こうした市場環境をふまえた塾経営の生存戦略を整理します。
学習塾市場の今後の動向と経営の生存戦略
学習塾の市場規模は今後も緩やかな横ばい〜微減が続くと予測され、大手と中小の格差がさらに広がる二極化が進む見通しです。
2025年度の教育産業全体の市場規模は前年比0.6%増の2兆8,720億円が予測されており、学習塾・予備校市場単体での大きな拡大は見込みにくい状況です。
この環境下で生き残るためには、以下の戦略的な方向性が有効です。
大手と真正面からぶつからない専門特化
大手塾と同じフィールドで争うのではなく、「医学部受験専門」「不登校支援専門」「プログラミング専門」「英検対策専門」など、特定のニーズに特化することで競合を避けた集客が可能になります。
特化型の塾は口コミ・紹介による集客が生まれやすく、広告費を抑えながら安定した生徒確保につながります。
IT化・DX化への先行投資
AI教材・タブレット・オンライン授業・保護者通知システムへの投資は、今後の集客・講師不足・運営効率の面で大きなリターンをもたらします。
先行して導入することで「ICT教育に強い塾」というブランドポジションを確立し、デジタルに関心の高い保護者層を取り込む戦略が有効です。
地域密着・塾長の人柄による差別化
大手塾が提供できない「塾長が直接教える」「地域の学校の定期テスト情報が豊富」「保護者と密に連絡を取る」という関係性の深さは、中小塾の最大の強みです。
生徒一人ひとりの名前・性格・家庭環境まで把握した指導は、大手チェーンでは構造的に難しいため、この強みを意識的に育てていくことが差別化の核心になります。
フランチャイズ加盟という選択肢
独立開業のリスクを抑えながら塾を始める選択肢として、フランチャイズ加盟があります。
ブランド力・教材・集客の仕組みを活用できるため、開業初年度の集客に苦労するリスクを減らせます。
ただし、ロイヤリティの支払いや本部の方針に従う制約があるため、独自の経営スタイルを優先したい場合は向かない場合もあります。
このように、学習塾の市場規模は今後も緩やかな横ばい〜微減が続くと予測され、大手と中小の格差がさらに広がる二極化が進む見通しです。
市場全体が縮小するわけではありませんが、何の差別化もなく経営を続けることは年々難しくなっており、専門特化・IT化・地域密着という明確な戦略を持つことが、長期的な生存の条件になっています。
学習塾の種類と市場における立ち位置
学習塾は指導スタイルと目的によって複数のカテゴリーに分けられ、それぞれが市場の中で異なる役割を担っています。
自塾がどのカテゴリーに属するかを正確に理解することで、競合の設定・ターゲットの絞り込み・差別化戦略が明確になります。
指導形態による分類
| 指導形態 | 特徴 | 市場での傾向 |
|---|---|---|
| 集団指導 | クラス単位での授業。1人の講師が15〜30人を担当 | 大手チェーンが多く、競争が激しい |
| 個別指導 | 講師1人が1〜3人を担当。生徒のペースに合わせる | 市場での割合が拡大中。費用高め |
| 自律学習型 | 生徒が自分で問題を解き、必要時にサポートを受ける | 少ない講師で多くの生徒に対応可能 |
| 映像授業型 | 録画授業を視聴して学習する | オンライン化・低コスト化と親和性が高い |
目的による分類
進学塾は中学・高校・大学入試に特化し、入試から逆算したカリキュラムで進みます。
補習塾は学校の授業の遅れや内申点対策を目的とし、学校のペースに合わせた指導が中心です。
総合塾は進学・補習の両方に対応し、学力別のクラス分けで多様なニーズをカバーします。
専門塾は特定の科目・目的(英語専門・医学部専門・プログラミングなど)に特化し、ニッチな需要を狙います。
近年は少子化・競争激化の中で、専門塾・ニッチ特化型が中小塾の生存戦略として注目されています。
このように、学習塾は指導スタイルと目的によって複数のカテゴリーに分けられ、それぞれが市場の中で異なる役割を担っています。
次は、通塾率と保護者の意識から市場の実態を掘り下げます。
通塾率と保護者の意識から見る市場の実態
学習塾の市場を支えているのは、子どもの数ではなく「通塾率の高さと保護者の教育熱」という需要側の構造です。
文部科学省の調査によると、中学生の通塾率は約60%前後で推移しており、中学3年生に限ると70%を超えるケースもあります。
小学生の通塾率も年々上昇しており、特に都市部では小学1〜2年生からの通塾が珍しくなくなっています。
保護者が塾に求めるものの変化
以前は「学校の授業の補習」が主な通塾目的でしたが、近年は以下のような目的が加わっています。
- 学習習慣・自己管理力の定着
- 受験対策の早期化(小学生からの受験準備)
- 学力以外の非認知能力の育成(思考力・表現力)
- 放課後の安全な居場所としての機能
こうした多様化するニーズに対応できる塾が集客力を高める一方、従来型の「テスト点数向上だけ」を売りにする塾は差別化が難しくなっています。
都市部と地方の市場格差
都市部では中学受験・難関高校受験の需要が高く、高単価の進学塾・専門塾が成立しやすい環境にあります。
地方では補習需要が中心で、単価は都市部より低くなりやすいですが、競合が少なく地域に根ざした塾が安定した経営を続けているケースも多いです。
自塾の立地が都市部か地方かによって、狙うべき市場・設定すべき料金・提供すべきサービスが大きく異なります。
このように、学習塾の市場を支えているのは、子どもの数ではなく「通塾率の高さと保護者の教育熱」という需要側の構造です。
少子化が進んでも塾へのニーズが消えない構造的な背景を理解した上で、自塾の強みを活かした経営戦略を立てることが、長期的な生存の鍵になります。

