塾を経営していると、月謝に関するトラブルは避けて通れない問題です。
未払い、返金要求、追加費用への苦情など、料金をめぐる様々な問題が発生します。
しかし、適切な契約管理と対応方法を知っておけば、金銭トラブルを最小限に抑え、円満に解決することができます。
本記事では、10年以上の塾運営経験から、教室で起こりやすい月謝トラブルの種類と、それぞれの効果的な解決策を解説します。
塾でよくある月謝トラブルの種類と対処法
月謝をめぐるトラブルには、未払い、返金要求、追加費用への不満、契約内容の認識違い、退塾時の精算という5つの典型的なパターンがあります。
月謝の未払いトラブル
最も頻繁に発生するのが、月謝の未払い問題です。口座振替の残高不足、クレジットカードの期限切れ、単純な振込忘れなど、理由は様々です。未払いが発生したら、まず電話で丁寧に確認します。「今月分の月謝が未納となっておりますが、何かお手続きに問題がございましたでしょうか」と、責めるのではなく確認の姿勢で連絡します。多くの場合、単なるミスなので、指摘すればすぐに払ってもらえます。それでも支払われない場合は、書面で督促し、期限を明確に伝えます。3ヶ月以上の未払いが続く場合は、内容証明郵便での督促や、法的措置も検討します。
返金要求トラブル
「急に引っ越すことになったから月謝を返してほしい」「成績が上がらないから返金してほしい」という要求です。この場合、契約書の返金規定を確認します。「契約書第○条の通り、月途中の退塾の場合、当月分の返金はいたしかねます」と丁寧に説明します。正当な理由があれば返金を検討することもありますが、基本的には契約通りに対応します。成績不振を理由にした返金要求には、「成績保証は行っておりません」と明確に伝えます。
追加費用への不満トラブル
「夏期講習費を聞いていない」「教材費が高すぎる」という苦情です。入塾時の説明不足が原因のことが多いため、まず契約書や説明資料を確認します。「入塾時の資料の○ページに記載しております」と証拠を示します。説明が不十分だった場合は、「ご説明が足りず申し訳ございませんでした」と謝罪し、今回に限り減額や分割払いを提案することもあります。ただし、明確に説明していた場合は、契約通りにお支払いいただくよう丁寧にお願いします。
契約内容の認識違いトラブル
「週2回と聞いていたのに週3回分請求された」「個別指導だと思っていたのに集団授業だった」など、契約内容の認識にズレがあるケースです。契約書を一緒に確認し、「こちらに週3回と記載されております」と事実を示します。本当に塾側のミスで誤った説明をしていた場合は、謝罪して契約内容を変更します。保護者の聞き間違いや勘違いの場合は、「認識の違いがあったようです。今後はこの内容でお願いいたします」と、今後の方針を明確にします。
退塾時の精算トラブル
「1ヶ月前に退塾を伝えたのに、翌月分も引き落とされた」「教材費を返してほしい」という問題です。退塾規定を契約書で確認し、「退塾は2ヶ月前までにお申し出いただく規定となっております」と説明します。教材費については、「一度お渡しした教材の返金は行っておりません」と伝えます。規定通りの対応が基本ですが、塾側の手続きミスがあれば、速やかに返金します。
これらの典型的な月謝トラブルには、契約書を根拠に冷静に対応することが解決の鍵となります。
次に、月謝トラブルを未然に防ぐための契約管理について解説します。
月謝トラブルを防ぐ契約書と説明の徹底
月謝トラブルの大半は、入塾時の契約書整備と丁寧な説明によって未然に防ぐことができます。
契約書には料金に関する全ての事項を明記します。月謝の金額、引き落とし日、追加で発生する費用(夏期講習、冬期講習、教材費、テスト代など)、返金規定、退塾規定を具体的に記載します。「その他、必要に応じて費用が発生する場合があります」という曖昧な表現は避け、「年間で必要な費用の目安は○○円〜○○円です」と具体的に示します。
入塾時の説明は口頭だけでなく、必ず書面で行います。料金表を渡し、「入会金○○円、月謝○○円、年2回の講習費が各○○円、教材費が年間○○円で、合計すると年間約○○円かかります」と明確に伝えます。保護者に「理解しました」と署名をもらうことで、後で「聞いていない」と言われるリスクを減らせます。
追加費用が発生するタイミングの2〜3ヶ月前には、事前に案内します。「夏期講習のご案内」として、内容、期間、費用を詳しく記載した書面を配布し、参加の可否を確認します。突然請求するのではなく、事前に告知し、保護者の承諾を得ることが重要です。
支払い方法を明確にし、複数の選択肢を用意します。口座振替、クレジットカード、銀行振込、現金払いなど、保護者が選べるようにします。口座振替の場合、残高不足による未払いを防ぐため、引き落とし予定日の1週間前にメールやLINEで通知するシステムを導入すると効果的です。
領収書は必ず発行し、保管を依頼します。「税務申告に必要な場合もございますので、大切に保管してください」と伝えます。領収書があれば、「払った・払っていない」のトラブルも防げます。
料金改定を行う場合は、3ヶ月以上前に告知します。「来年度より、月謝を○○円から○○円に改定させていただきます。理由は○○です」と、理由とともに丁寧に説明します。突然の値上げは大きな不満を生むため、十分な準備期間を設けます。
徹底した契約管理と事前説明により、月謝トラブルの発生を大幅に減らすことができます。
それでは、未払いが発生した際の具体的な督促手順について見ていきましょう。
月謝未払い時の督促手順とタイミング
月謝の未払いが発生したら、段階的に督促を行い、早期回収を目指すことが重要です。
未払い発生から3日以内に、まず電話で確認します。「今月分の月謝が未納となっておりますが、お手続きに何か問題がございましたでしょうか」と、丁寧に確認します。責めるような口調は避け、あくまで確認の姿勢で連絡します。口座振替の残高不足やクレジットカードのトラブルなど、保護者も気づいていないことがあるため、指摘すればすぐに対応してもらえることが多いです。
電話で連絡がつかない、または支払いの約束をしてもらえない場合、1週間後にメールまたは書面で督促します。「○月○日にお電話いたしましたが、ご不在のようでしたので書面にてご連絡いたします。○月分の月謝○○円が未納となっております。○月○日までにお支払いください」と、期限を明確に記載します。
それでも支払われない場合、2週間後に再度電話と書面で督促します。この段階では、「このまま未払いが続く場合、塾の利用を停止させていただく可能性がございます」と、厳しめの警告を含めます。まだ感情的にならず、事務的に淡々と伝えます。
1ヶ月経っても支払われない場合は、授業の受講を一時停止します。「未納が解消されるまで、授業の受講をご遠慮いただきます」と通知し、実際に授業を受けさせません。この時点で多くの保護者は支払います。
2ヶ月以上未払いが続く場合は、強制退塾を通告します。「○月○日までにお支払いがない場合、退塾処理をさせていただきます」と最終通告します。それでも支払われなければ、退塾処理を行い、未払い分の回収に移ります。
3ヶ月以上の未払いで、金額が大きい場合は、内容証明郵便で督促します。「○月○日までにお支払いがない場合、法的措置を取らせていただきます」と明記します。弁護士に相談し、必要なら少額訴訟も検討します。
ただし、経済的に本当に困窮している家庭もあります。事情を聞いた上で、分割払いや一時的な減額など、柔軟な対応を検討することも必要です。「今月は半額でも構いません」「2ヶ月分を3回に分けて払っていただけますか」と提案することで、関係を壊さずに回収できることもあります。
段階的で適切なタイミングでの督促により、未払い金の回収率を高めることができます。
最後に、月謝管理システムの導入と記録管理について解説します。
月謝管理システムと記録の重要性
月謝トラブルを防ぎ、適切に管理するためには、システム化と記録の徹底が不可欠です。
月謝管理システムを導入します。生徒ごとの入金状況、未納者のリスト、督促履歴などを一元管理できるシステムがあれば、未払いの見落としを防げます。毎月自動でチェックし、未納があればアラートが出る機能があると便利です。エクセルでの管理も可能ですが、専用システムの方が効率的で、ミスも減ります。
口座振替やクレジット決済を推奨します。毎月手動で振り込んでもらう方式は、振込忘れが発生しやすく、塾側の確認作業も手間がかかります。自動引き落としにすれば、未払いのリスクを大幅に減らせます。ただし、残高不足での引き落とし失敗もあるため、事前通知システムは必須です。
入金確認を必ず行い、記録を残します。誰がいつ何円払ったか、領収書番号は何番か、全て記録します。後で「払った・払っていない」のトラブルになった時、記録があれば証拠になります。銀行の振込明細、口座振替の記録、領収書の控えなど、全て保管します。
保護者との金銭に関するやり取りは、全て記録に残します。「○月○日、電話で督促。『週末に振り込みます』との回答」「○月○日、メールで督促。返信なし」と詳細に記録します。裁判になった場合、これらの記録が重要な証拠となります。
返金や減額など、特別対応をした場合は、必ず書面で合意内容を残します。「今回に限り、○○円を返金いたします」「今後3ヶ月間、月謝を○○円に減額いたします」と書面にし、保護者に署名をもらいます。口約束だけでは、後で「そんな話は聞いていない」と言われるリスクがあります。
定期的に未納状況をチェックし、スタッフ間で共有します。月に1回は未納者リストを確認し、「この人は来月で2ヶ月目だから、今月中に回収する」と対応計画を立てます。一人のスタッフに任せず、組織として管理することが重要です。
税理士や会計士と連携し、適切な会計処理を行います。未払い金の貸倒処理、返金の処理など、税務上の扱いを正しく行うことも、トラブル防止につながります。
システム化と徹底した記録管理により、月謝トラブルを最小限に抑え、万が一のトラブルにも適切に対応することができます。


