塾を経営していれば、保護者からのクレームに直面する場面は必ずあります。
その時に何をどう言えばいいのか、具体的な対応テクニックを知っておくことが重要です。
適切な言葉選びと対応の流れを理解していれば、問題を円満に解決でき、場合によっては信頼関係を深めることも可能です。
本記事では、10年以上の塾運営経験から、クレーム対応の現場で実際に使える具体的なテクニックと対処法を解説します。
塾でのクレームへの具体的な対応手順
塾においてクレームを受けたら、まず謝罪と傾聴で相手の感情を受け止め、事実を確認してから、できることとできないことを明確に伝え、解決策を提示します。
保護者からクレームの電話や来訪があったら、まず「ご連絡ありがとうございます」「お時間をいただき恐れ入ります」と丁寧に応対します。そして、相手の話を一切遮らず、最後まで聞きます。メモを取りながら、「はい」「なるほど」と相槌を打ち、真剣に聞いている姿勢を示しましょう。この段階で反論や言い訳は絶対にしません。
話を聞き終えたら、まず謝罪します。「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」「ご心配をおかけして申し訳ございません」と伝えます。ここでのポイントは、事実関係の是非を認める謝罪ではなく、「不快な思いをさせたこと」への謝罪だということです。事実が分からない段階で「こちらが悪うございました」と全面的に非を認めると、後で問題になることがあります。
次に、事実確認を行います。「詳しく調査させていただきたいので、○日までお時間をいただけますでしょうか」と伝え、関係者からの聞き取りや記録の確認を行います。即答できる簡単な内容でも、一度持ち帰って冷静に判断することが重要です。その場で感情的に回答すると、後で撤回できなくなります。
事実確認後、再度面談または電話で結果を報告します。「調査いたしました結果、このような状況でした」と客観的に説明します。塾側に非がある場合は明確に謝罪し、改善策を提示します。「今後はこのように対応いたします」「再発防止のため、このような措置を取ります」と具体的に伝えましょう。
塾側に非がない、または保護者の誤解である場合は、「お気持ちは十分理解できますが、事実としてはこのような状況でございました」と丁寧に説明します。ただし、保護者の感情を否定せず、「ご心配になるのも当然と思います」と共感を示すことを忘れずに。
解決策は、できれば複数の選択肢を提示します。「A案とB案がございますが、どちらがよろしいでしょうか」と保護者に選んでもらうことで、押し付けられた感を減らせます。ただし、できないことについては明確に「申し訳ございませんが、それは規約上できかねます」とはっきり伝えます。
最後に、合意した内容を確認します。「では、このような対応でよろしいでしょうか」と念押しし、可能であればメールで文書として残します。これで「言った・言わない」のトラブルを防げます。
このよう、謝罪と傾聴で相手の感情を受け止め、事実を確認してから、できることとできないことを明確に伝えて対応することで、多くのクレームは円満に解決できます。
次に、クレーム対応で実際に使える具体的なフレーズを紹介します。
場面別クレーム対応フレーズ集
状況に応じた適切なフレーズを使うことで、保護者の感情を和らげ、建設的な対話ができます。
感情的な保護者への対応フレーズ
怒りが収まらない保護者には、「おっしゃる通りです」「お気持ちはよく分かります」「ご立腹されるのも無理はございません」といった共感の言葉を使います。ただし、事実関係を認めるわけではないので、「ご不快な思いをさせて」「ご心配をおかけして」という表現にとどめます。
「でも」「しかし」「ですが」といった逆接の接続詞は、相手を刺激するので避けましょう。代わりに「おっしゃることはよく分かります。一方で、このような事情もございまして」と、相手を否定せずに別の視点を提示します。
事実確認のフレーズ
「もう少し詳しくお聞かせいただけますでしょうか」「具体的には、いつ頃のことでしょうか」「どのような状況だったか教えていただけますか」と、詰問口調にならないよう丁寧に確認します。
保護者の記憶違いや誤解がある場合でも、「それは違います」と否定せず、「記録を確認いたしましたところ、このような状況でした」と客観的な事実を示します。
できないことを断るフレーズ
理不尽な要求には、「お気持ちは十分理解できますが、申し訳ございません。規約上対応いたしかねます」「ご期待に沿えず申し訳ございませんが、当塾ではそのようなサービスは提供しておりません」と、明確に断ります。
「検討します」「考えさせてください」という曖昧な返答は、期待を持たせるだけなので避けます。できないことは、理由とともにはっきり伝えることが誠実な対応です。
解決策を提示するフレーズ
「このような対応はいかがでしょうか」「A案とB案をご用意しました」「ご希望に添えるよう、このような改善策を考えました」と、前向きな姿勢を示します。
金銭的な補償が必要な場合は、「今回に限り」「特例として」という言葉を必ず添えます。「今後も同様の対応をいたします」と受け取られないよう注意が必要です。
面談を終了するフレーズ
合意に達したら、「では、このような対応でよろしいでしょうか」「ご納得いただけましたでしょうか」と確認します。そして「本日はお時間をいただき、ありがとうございました」「今後ともよろしくお願いいたします」と丁寧に締めくくります。
合意に達しなかった場合でも、「本日のお話を踏まえて、再度検討させていただきます」「改めてご連絡させていただきます」と、継続して対応する姿勢を示します。
このように、状況に応じた適切なフレーズを使い分けることが、スムーズな対応につながります。
それでは、特に対応が難しいクレームへの対処法について解説します。
対応が難しいクレームへの実践的対処法
理不尽なクレームや感情的な保護者には、通常の対応では解決できないことがあります。
モンスターペアレントへの対応
「うちの子は悪くない」「全部塾のせいだ」と一方的に主張する保護者には、客観的なデータで対抗します。授業態度の記録、テスト結果の推移、宿題提出状況などを提示し、「このようなデータがございます」と事実ベースで話します。感情論には感情で返さず、あくまで冷静に対応します。
それでも納得しない場合は、「このような状況では、お子様の成長のために最善の環境を提供できないかもしれません」と、退塾も視野に入れた話し合いを提案します。無理に引き留めても、今後もトラブルが続くだけです。
金銭要求への対応
「月謝を返せ」「慰謝料を払え」という要求には、まず冷静に「ご要望は承りました。規約を確認の上、対応可能かどうか検討させていただきます」と時間を取ります。その場で返金を約束してはいけません。
規約上返金できない場合は、「契約書の第○条に記載の通り、このような場合の返金は対応いたしかねます」と明確に伝えます。それでも要求が続く場合は、「法的な問題になりますので、弊社の顧問弁護士と相談させていただきます」と伝え、エスカレーションを防ぎます。
長時間拘束への対応
延々と同じ話を繰り返す保護者には、「本日お伺いした内容は以上でよろしいでしょうか」「他にご質問はございますか」と、面談の終了を促します。それでも帰らない場合は、「申し訳ございませんが、次の予定がございますので、続きは改めてお時間を取らせていただけますでしょうか」と、明確に時間の制約を伝えます。
電話の場合も同様で、「ご意見は十分承りました。内容を整理して、改めてご連絡させていただきます」と切り上げます。長時間対応すると、スタッフの疲弊やミスにつながります。
脅迫的な言動への対応
「弁護士に相談する」「SNSで拡散する」「教育委員会に訴える」といった脅し文句を使う保護者には、動じずに「それはお客様のご判断にお任せいたします」と冷静に返します。こちらも「顧問弁護士に相談いたします」と伝えることで、安易な脅しは止まることが多いです。
暴力的な言動や脅迫があった場合は、すぐに警察に相談します。スタッフの安全が最優先です。その場で110番通報することもためらってはいけません。
このような理不尽なクレームや感情的な保護者難しいケースほど、一人で抱え込まず、複数人で対応し、記録を残すことが重要です。
最後に、クレーム対応後のフォローアップについて解説します。
クレーム対応後のフォローアップと再発防止
クレームを解決した後のフォローアップと、同じ問題を繰り返さない仕組み作りが重要です。
クレーム解決後、1週間〜2週間後に「その後いかがでしょうか」「改善策は機能していますでしょうか」とフォローの連絡を入れます。電話やメールで簡単に確認するだけで、保護者は「ちゃんと対応してくれている」と感じます。このフォローを怠ると、「一時的な対応だった」と不信感を持たれます。
クレーム内容は全て記録し、スタッフ間で共有します。誰が対応しても同じレベルの対応ができるよう、顧客管理システムやクラウドツールに記載します。「前回のクレームを知らなかった」という状況は、保護者を最も怒らせる原因の一つです。
月に1回、スタッフミーティングでクレーム事例を共有します。どんなクレームがあったか、どう対応したか、何が良くて何が悪かったかを振り返ります。失敗事例も隠さず共有することで、組織全体の対応力が向上します。
クレームから見えた問題点は、必ず改善します。「説明不足でクレームが発生した」なら、説明書面を作成する。「講師の対応でクレームが出た」なら、講師研修を実施する。クレームは塾の弱点を教えてくれる貴重な情報源です。
再発防止策として、よくあるクレームについては、入塾時の説明書類に盛り込みます。「成績保証はできません」「講師の指名はできません」「振替は前日までの連絡が必要です」など、クレームになりやすい項目は事前に明記し、署名をもらいます。
クレーム対応マニュアルを作成し、全スタッフが同じ対応を取れるようにします。対応の流れ、使うべきフレーズ、エスカレーションのタイミングなどを明文化します。特に新人スタッフには、ロールプレイング形式で研修を実施すると効果的です。
適切なフォローアップと再発防止の仕組みを作ることで、クレームを成長の機会に変えることができます。